東京高等裁判所 平成6年(う)1061号 判決
被告人 横尾正明
〔抄 録〕
本件控訴の申立ては、原判決全部に対するものであるが、右控訴の趣意は、もっぱら原判示第一の罪の刑に対する量刑不当に限られ、同第二、第三の罪の刑の部分については、なんら触れるところがない。したがって、この部分についての控訴の申立ては、厳密にいえば、控訴趣意を欠くものといわざるをえないが、所定の期間内に控訴趣意書が全く提出されない場合とは異なり、本件においては、ともかく原判決全部に対するものとして、控訴趣意書が提出されているのであるから、刑事訴訟法三九二条二項による職権調査は、原判決の全部に及びうるものと解してよいと思われる。
≪中略≫
本件勾留状は、原判示第一の事実を勾留事実として発せられたものであるから、未決勾留日数の算入に当たっても、勾留状の発せられた右第一の罪の刑をまず刑法二一条の本刑とみるべきことは論をまたないところである。勾留事実以外の罪の刑に未決勾留日数を算入しうるのは、勾留事実が無罪となったときや算入すべき未決勾留日数が勾留にかかる罪の刑の刑期を超過するときなど、勾留事実以外の罪の刑に算入することを相当とする場合に限られるべきであり、かかる特段の事情が認められない限り、たとえ、その勾留が勾留状の発せられていない他の事実の審理のために実質上利用されたからといって、他の罪の刑に未決勾留日数を算入することは許されないものと解される(大審院大正九年三月一八日判決・刑録二六輯一九五頁、最高裁判所昭和三〇年一二月二六日判決・刑集九巻一四号二九九六頁、同三九年一月二三日判決・刑集一八巻一号一五頁参照)。
≪中略≫
原判決が誤って原判示第二、第三の罪の刑に算入した未決勾留日数を削除し、その未決勾留日数を第一の罪の刑に算入し直すことは、原判決の違法を是正するためのやむをえない措置であり、かつ、判決全体としてみれば、なんら被告人に実質的な不利益を及ぼすものではないから、刑事訴訟法四〇二条の不利益変更には当たらないものと思料する。
(早川 八束 仙波)